第84章

大したことじゃない。けれど、根気は要る。古川朱那があれこれ動き回っているうちに、気づけば2時間が過ぎていた。

夜8時。チャイムが鳴る。

朱那は手を拭いて小走りに玄関へ向かい、扉を開けた。

立っていたのは佐野一玄だった。相変わらず濃い色のシンプルなカジュアル。手には紙袋を提げていて、形からして赤ワインらしい。

「佐野さん、どうぞ」

朱那が身を引くと、佐野一玄は室内へ入ってくる。まずリビングをひととおり見回した。

キャットタワーの最上段に、ふくがべったりと寝そべっている。見下ろすように佐野一玄を眺めて、気だるげに「ニャ」とひと声――挨拶のつもりらしい。

佐野一玄は唇をきゅっと結び、...

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