第32章

藤原颯斗はこの面会のために知恵を絞り、ようやく佐藤秘書の前に顔を出せた程度だった。それでも気落ちするどころか、笑みを浮かべたまま崎原時男の背後について歩く。

廊下ではまだはっきりしなかった。だがエレベーターに乗った瞬間、藤原颯斗は崎原夫妻のあいだに漂う妙な空気を嗅ぎ取った。

小林暁が終始うつむいているのは、別に珍しくもない。

異様だったのは崎原時男のほうだ。壁にもたれ、腕を組み、瞳を半分だけ落としたまま――視線が、鉤のように彼女をなぞる。垂れた髪のてっぺんから、ぎゅっと握りしめて白くなった指先へ。そこからまた、張り詰めた横顔へ、ゆるゆると戻っていく。

行ったり来たり。まるで目の前の女...

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