第40章

その場にいた全員が、一瞬だけ言葉を失った。

崎原時男が口にしたのが小林暁のことだと、誰もが理解していた。だが、まさかこのタイミングで――あの「妻」の名が出るとは思っていなかったのだ。

世間の前では、二人は互いを立て合う理想の夫婦。けれど内情を知る者なら誰だってわかっている。崎原時男の想いは、一度たりともその可哀想な妻に向いたことがない。

藤原空人は友人に向かって笑った。何も言わなくても、からかう気配だけは顔にくっきり浮かんでいる。

天野夢華は腕の中のウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアの頭をゆっくり撫で、視線だけを後ろへ流して崎原時男に落とす。ふっと喉を鳴らすように笑い、柔らかな声...

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