第65章

長年の友人たちに「口は悪いくせに情に弱い」とからかわれてきた小林光は、いま約束の時間に向かおうとしていた。相手はここ最近、何かと顔を合わせることが増えた崎原時男だ。

鏡の前でネクタイの結び目を整えていると、佐藤秘書がスマホを手に外から入ってくる。

控室の扉は惰性でぱたんと閉まり、外の気配をすべて遮断した。

「どうした」

視界の端に佐藤が映っても、小林光は振り向かない。顎をわずかに上げたまま、鏡越しに剃り残しがないかを丹念に確かめていた。

「崎原様からお電話です」

小林光は動きを止めず、短く「ん」とだけ返す。佐藤が操作した受話口が、そのまま彼の耳元に当てられた。

「崎原か。どうし...

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