53、
白川蘭視点
彼は一語一語をはっきりと、ゆっくり告げた。その全部が胸の奥に重く落ちてきて、息が詰まる。
「……わからない」
自分の声が聞こえた。掠れていて、乾いていて、ひどく頼りない。
「なら、賭けてみようか」
後藤正樹の指先が上へ移動し、玄関ドアの暗証番号パネルに触れる。
彼の視線は一瞬たりとも逸れない。私の顔にぴたりと据えられたまま、ほんのわずかな表情の揺れすら見逃すまいとするみたいに、鋭く集中していた。
私はただ、呆然と彼を見つめ返す。
軽い電子音が鳴り、ロックが外れた。
リビングは明るく照らされ、しんと静まり返っている。すべて、出かける前のまま。
後藤正樹は目を伏せ...
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