56、

白川蘭視点

後藤正樹の声は低い。言葉の奥に潜む冷たさまでは、正直、全部は汲み取れなかった。けれど——決めている、という強さだけは嫌というほど伝わってきた。

その瞬間にようやく分かった。

私はもう、後藤正樹を前と同じふうには見られない。

後藤正樹が、先に一歩引いた。

伏せたまつげの影を落とし、石のテーブルの上に置いていた眼鏡を取り上げてかけ直す。

後藤正樹が眼鏡をかけるようになったのは、高2の頃からだ。

あの日、後藤家がうちに来て食事会をした。最後に玄関をくぐった後藤正樹を見た瞬間、胸の奥がふっとざわついた。知らない人みたいに、少しだけ遠い。

よく見れば、鼻筋に細いフレームの眼...

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