60、

白川蘭視点

ドアが開き、入ってきたのは高坂綾乃だった。

大学時代、いちばん仲の良かった友だち。彼女の研究室は私のスタジオのすぐ近くで、たまに本を借りに来たり、コーヒーをちゃっかり飲みに来たりする。出入りもすっかり慣れたものだ。

胸の奥の力が、ふっと抜けた。

よかった。綾乃で。後藤快斗じゃない。

高坂綾乃は入ってくるなり、後藤正樹に丁寧に会釈してから、私へ視線を向ける。

「本、ここに置きっぱなしだったの。取りに来た」

「寝室のベッド横。自分で取って」

綾乃がそのまま寝室へ入っていく。私は背中の筋肉をきつく張り詰めたまま、遅れて襲ってきた怖さに息をのんだ。

さっき来たのが快斗だ...

ログインして続きを読む