第4章

「手続きは、ようやく終わったわ。陽太は明後日、無菌室に入って、骨髄移植前の化学療法に備えるの」

綾子は病室の窓辺に立ち、外の灰色の空を眺めていた。今日は節分の前日。民間伝承では、この日に病魔を追い払い、春を迎えるという。陽太にとって、それはまるで新しい生の兆しのようだった。綾子は、節分の力が陽太の体内の病魔を追い払ってくれるよう、静かに祈った。

朝、綾子は病院の厨房を借りて、恵方巻きを数本と炒り豆を小鉢に一杯作った。節分の伝統食で、これを食べると幸運が訪れると言われている。彼女はそれを病室にいる十数人に配ると、誰もが久しぶりの笑顔を浮かべた。

「陽太、少し食べましょう」

綾子は...

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