第5章

陽太は、梅の花と共に逝ってしまった。

綾子がその一行を書き記した時、彼女の指は震えが止まらなかった。

窓の外では最後の一枚の梅の花びらが、ゆっくりと舞い落ちていた。まるで陽太の命が、静かに、何の抗いも見せずに彼女のもとを去っていくかのように。

骨髄移植から三日後、陽太は高熱を出し始めた。初めは、誰もがただの正常な拒絶反応だと思っていた。だが五日目になっても、彼の体温は常に四十度前後をさまよい、咳もますますひどくなっていった。

「綾子さん、少しお話があります」

神谷医師の表情は険しく、その瞬間、綾子は良くないことが起きたのだと悟った。

「陽太くんの状況は楽観できません。心...

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