第7章

 北海は、すべての音を呑み込んでしまいそうなほど、暗く、激しくうねる広大な水域だった。

 私はそのクルーズ船で二十日間を過ごした。ノルウェーのフィヨルドの間を漂い、アイスランドの雷鳴のような瀑布の前に佇んだ。

 骨に沁みる寒さは、私にとって救いだった。

 それは血管の中を流れる腐敗を凍てつかせ、過去の生活を断ち切るために負った傷の痛みを、麻痺させてくれるような気がしたからだ。

 チューリッヒに降り立ったとき、心は幾分軽くなっていた。

 到着ロビーでは、久田聡が私を待っていた。

 彼に会うのは数年ぶりだ。留学で街を離れて以来だが、その存在感は相変わらず際立っている。

 柔らかなカ...

ログインして続きを読む