第10章

「俺の目が節穴だとでも? 今しがたこっちへ来た時、お前が汐里を押すのを見たんだが。まだ言い訳するつもりか」

羽鳥汐里は床に座り込み、天変地異でも起きたかのように泣きじゃくっていた。

「颯兄さん、お姉さんが私のこと、浮気相手だって罵るの。全部私が悪いのよ。帰国すべきじゃなかったんだわ。お医者様には、私の身体は刺激を受けちゃいけないって言われてるのに……。明日、やっぱりM国に帰って療養しようかな。お姉さんは、私が帰ってきたのを歓迎してないみたいだし」

伊井瀬奈は黒川颯に首を締め上げられ、壁に押し付けられた。手から滑り落ちた検査結果の用紙が、雪のように床に舞い散る。

背中に走った冷気が、た...

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