第104章

黒川颯が歩き出すと、羽鳥汐里と黒川織江も後についてきた。

「この馬は風《かぜ》という名で、気性が少し荒い。乗馬したいなら、織江に頼んで大人しい馬を紹介してもらうといい」

黒川颯は、伊井瀬奈が餌をやっている馬を指して紹介した。

ここにいる馬の中で、彼が知っているのはその一頭だけだった。武藤拓真が高値で買い取ったものの、一度乗っただけで脹脛を骨折して三ヶ月も寝たきりになり、腹いせに危うく馬肉にされるところだった馬だ。

黒川颯はその馬がどうにも気になった。額の真ん中にハートのような形をした白い毛が生えており、それを気に入って譲り受け、自分の乗馬クラブに預けて専門のスタッフに調教させていたの...

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