第109章

黒川颯は午前中ずっと忙しく、伊井瀬奈から送られてきた辞職メールを見て、腹の底から怒りがこみ上げてきた。

彼はこめかみを手で揉みながら伊井瀬奈の内線に電話をかけた。あの女を呼びつけて説教してやろうと思ったのだが、何度かけても誰も出ない。

「神谷竜也、デザイン部へ行って伊井瀬奈を呼んでこい」

電話が繋がらないので、彼は人を動かすしかなかった。

神谷秘書は社長の険しい顔を見て、余計なことは聞かずに直接階下へと向かった。何が起きたのかは分からないが、どうやら首を覚悟で仕事に臨まなければならない時が来たらしい、と漠然と感じた。

デザイン部は静まり返っていた。神谷竜也が伊井瀬奈のデスクまで行く...

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