第11章

綾辻修也は顔を上げて伊井瀬奈に尋ねた。

「出前、頼んだか?」

伊井瀬奈は立ち上がって玄関へ向かう。

「ドアを開けてみればわかるでしょ」

ドアを開けると、そこに立っている人物を見て、心臓が急に縮こまった。数日間穏やかだった感情が、また少し高ぶってくる。

「何しに来たの?」

「よくもそんなことが言えるな? 既婚者のくせに独身男性の家に泊まるとは、どういうつもりだ? 俺と帰るぞ」

「既婚者って言葉、今の私には相応しくないんじゃないかしら? 協議離婚したはずよ。明日、市役所で離婚届を済ませましょう」

でないと、いつまでも邪魔される。

彼女が明日の離婚について話しているとい...

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