第110章

その日の午後、黒川グループはどんよりとした空気に包まれていた。

黒川颯は疲れ切った体を引きずって退社し、車が中心街のハンバーガーショップを通りかかった時、ふと目を動かした。こんな小さな店で、味も自分にとっては普通だと感じていたが、家のあの偏食の女がどうしてここのものが好きなのか、理解できなかった。

「停めろ」

神谷竜也はその命令を聞くと、すぐに停車場所を探した。一秒でも遅れれば叱責が飛んでくるのではないかと、この肝心な時期に黒川颯を怒らせるわけにはいかなかった。

車はゆっくりと路肩に停まった。

黒川颯は窓の外に目をやり、神谷竜也に言った。

「ハンバーガーをいくつか買ってこい」

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