第117章

伊井瀬奈は庭で採れたきゅうりやトマト、それに小松菜をいくつかキッチンへ運び、部屋に戻ってスーツケースの荷造りを始めた。退職するだけなのに、どうしてこんなに面倒なのだろう、と心の中でぶつぶつと呟く。

荷物をまとめ終え、お爺さんに別れの挨拶をしに向かった。

階下に下りると、リビングでお爺さんと話している人がいた。痩せた体つきで、声は穏やかで上品だ。

「おじさん、いらしてたんですね」

伊井瀬奈は礼儀正しく挨拶し、本題に入った。

「お爺さん、私、J市に戻らなければならなくなりました。しばらくの間、こちらでお側にいられなくなりますが、用事が片付いたらまた戻ってきます」

黒川お爺さ...

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