第124章

その夜、彼女は東湖別荘へと戻った。

ここには清掃員を二人住まわせており、家の手入れや、庭に花を植えることなどを任せていた。そうして家の中にいくらかの生気をもたらしていた。

母が亡くなったからといって、この別荘を荒れ果てさせるわけにはいかない。やはり人の気配は必要だった。

庭の月季花《バラ》はちょうど見頃で、色とりどりの大輪が咲き誇り、美しさを競い合っている。

家の中は窓も家具も塵一つなく磨き上げられていた。

二人の家政婦は彼女が帰って来るのを見ると、急いで食事の準備に取り掛かった。

伊井瀬奈はあまり食欲がなく、軽く口にしただけで部屋に戻った。

彼女は以前ここで見つけ出した写真を...

ログインして続きを読む