第133章

伊井瀬奈は、その「奥様」という呼びかけに全身がむず痒くなるのを感じ、もう一度念を押した。

「やはり私の名前で呼んでください。社内では名前で呼び合うのが文化ですし、あなたたちがそんなふうに呼んでいるのを黒川社長に聞かれたら、叱られてしまいますよ」

先ほど口を開いた社員は、はっと口を覆った。

その時、人事部の若い女性社員が入ってきて皆に告げた。

「会社が手配した大型バスが到着しました。これからQ市へ出発できますので、準備のできた方は私について来てください。ご家族をお連れの方や、人を待っている方は後の車両にご乗車ください」

その言葉が終わるや否や、皆から歓声が上がった。

これほど長く残...

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