第146章

やましいことがなければ、後ろめたい思いをする必要はない。伊井瀬奈は淡々と言った。

「言いたいことは先ほど申し上げました。どのグラスにも一切触れておりません。どうしても信じられないのでしたら、専門の方に鑑定を依頼してください。私の指紋はないはずです」

そう言い終えると、伊井瀬奈はバッグを背負って立ち去った。羽鳥汐里が後ろで泣き叫ぶ。

「颯兄さん、どうして彼女を行かせるの。彼女は私たちの赤ちゃんを殺そうとした犯人なのよ」

「騒ぐな!」

黒川颯はその三文字を吐き捨てると、後を追うように去っていった。泣きじゃくる羽鳥汐里と黒川織江が、その場に呆然と立ち尽くしていた。

午、ヨットが岸に着い...

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