第15章

黒川颯はスマホを手に、しばし呆然とした。

「彼女が産婦人科病院に何の用だ?」

電話の向こうの男は、先ほど神谷秘書から命令を受け、社長が奥様のスケジュールを把握できるよう、密かに後をつけていたのだ。

神谷竜也は最近の恋愛沙汰で悟っていた。自分の社長は典型的なツンデレで、本当は離婚したくないから逃げ出してきたくせに、それを認めようとしない。それなのに、しょっちゅう奥様が家で何をしているか尋ねてくるのだ。

報告しやすいようにと、奥様の動向を監視させていた。J市に手配した者が伊井瀬奈が診察室に入っていくのを目撃したが、中の様子まではわからない。電話口の社長の機嫌がすこぶる悪いことを察し、彼は...

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