第269章

彼が旧宅に戻るのは、しばらくぶりのことだった。

伊井瀬奈が去ってからというもの、お爺さんとの関係はすっかり冷え込み、伊井瀬奈を連れ戻さない限り、旧宅の敷居は跨がせないとまで言い放たれた。

そうは言っても、所詮は実の孫。黒川のお爺さんが彼を門前払いしたのは最初の二年だけで、その後、彼の暮らしも楽ではなく、果てしない後悔の中で日々を過ごしていると知ると、やはり不憫に思ったのだ。

正月や節句になると、口を緩めて彼が食事に来ることを許した。

食事以外では、黒川のお爺さんは彼を相手にしようとはしなかった。その後、誰か気の利かない者が伊井瀬奈が亡くなったという知らせをお爺さんの耳に入れてしまい、...

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