第296章

伊井瀬奈はしばらく考えあぐねた結果、やはり当面は秘密にしておくことに決めた。彼に安易に父親にならせるわけにはいかない。

少なくとも一定期間は彼を試してみて、父親としての役割をきちんと果たせるか見極めてから教えることを検討すべきだ。それに、これほど大きなことなのだから、まずは二人の子供たちの意向も探っておかなければならない。

突然父親が現れたら、子供たちにだって受け入れる時間が必要だろう。

「しまっておいて。こんなに大きな宝箱を抱えて街をうろついてたら、誘拐の標的になっちゃう」

誘拐と聞いて、黒川颯はS市で起きたあの事件を思い出し、今でもぞっとする。

「わかった。じゃあ、一旦預かって...

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