第81章

神谷竜也は一瞬気まずい顔をしたが、すぐに我に返ってスマートフォンをひったくり、通話を切った。

「あの……黒川社長、次は何をいたしましょうか?」

契約も済んだことだし、もう帰れるだろうと神谷竜也は思った。彼の妻は一日に何度も電話をかけてきて帰宅を促すのだ。

黒川颯は長年連れ添ったアシスタントを、心底軽蔑したような目で見つめた。

「そんな気持ち悪い登録名にする必要あるのか?」

神谷竜也は死ぬほど気まずかった。自分の愛妻家属性が、こんなにも不意に上司の前で暴露されてしまったのだ。しかも、その上司はドのつく堅物ときている。

「黒川社長、嫁さんを見つけるのも楽じゃないんですよ。今の時代、女...

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