第87章

職場の公平さなどないと誰もが知っているが、それでも越えてはならない一線というものはある。

一日も経たないうちに、盗作事件は社内の各部署に広まっていた。会社の至るところでひそひそと噂話が交わされ、事態の展開は皆の予想を遥かに超えていた。

午後、伊井瀬奈が時枝と一緒にトイレへ向かうと、向かいから歩いてくる中島玲那と鉢合わせた。

「伊井瀬奈、あんたがやったんでしょ?」

中島玲那は開口一番そう言い放った。まるで羽鳥汐里のために正義の鉄槌を下しに来た、と言わんばかりの顔つきだ。

伊井瀬奈は平然と唇の端を吊り上げた。「私が何を? 彼女に盗作をそそのかしたとでも?」

過ちを犯しておきながら反省...

ログインして続きを読む