第97章

伊井瀬奈は神谷竜也に続いて羽鳥汐里の病室の外まで来ると、足を止めて静かに中の様子を窺った。

病室の中では、羽鳥汐里が青白い顔でベッドに横たわり、眠っていた。脚にはギプスがはめられ、手にも包帯が巻かれている。

黒川颯は椅子の背にもたれかかり、小さな鼾をかいていた。

結婚して三年、伊井瀬奈が彼の鼾を聞くのは初めてだった。この瞬間、彼はきっとひどく疲れているのだと、椅子に座ったまま眠ってしまうほどに疲れているのだと思った。

「奥様、黒川社長を責めないでください。羽鳥汐里は昨夜、また三度も自殺を図り、手首まで切ったのです。黒川社長が彼女を病院に運び込んだ後、帰ろうとしたのが原因でして……社長...

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