第110章

アメフラシはどうやら道を間違えたらしいと気づいた。人の気配もまばらな裏門は上り坂の山道へと続いており、視界には広大な緑の植生が広がるばかりで、もう校舎は見当たらない。

踵を返し、来た道を引き返そうとしたが、ある声に引き寄せられた。

キャンパス内の、人気のない小さな林から、女子生徒の泣き声が聞こえてくるのだ。

彼女は絶えず懇願している。「お願い、放して」

誰かが彼女の向かいに立ち、笑っていた。「お前だって、あんな写真が出回るのは嫌だろ? 今回だけだ。終わったら写真も動画も全部消してやる」

ある意味で、キャンパスとは小さな社会だ。外の世界が持つ、美しい一面も、そして陰鬱な一面も、この小...

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