第272章

電話ボックスを離れても、注意事項を知らせる放送がまだ街中に響き渡っている。街を歩く百万もの擬態生物たちは、この騒がしい音声が、人影に紛れたある一人の人間のために用意されたものだとは知る由もない。

「安全にはくれぐれもご注意ください。身体を湿らせた状態に保ち、決してあの者たちに近づかないでください」

「どうかお静かに。歩調を緩め、物音を立てないでください。走ったり騒いだりすることは固く禁じられています」

 唐沢優子はその声を右から左へと聞き流していた。

 彼女はルシフェルに手を引かれ、封鎖区で素晴らしく自由な一日を過ごした。

 ラクシャ市はかつて観光都市だっただけあって、環境はとても...

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