第92章

バベルタワー基地医療センター、病棟は煌々と明かりが灯っていた。

一番広い治療室に灯りがともり、その入口に二人の若い女性が立っている。

治療師たちは、温厚なウサギも追い詰められれば噛みつくということを、その身をもって知ることになった。

数時間前、津波が去り、基地の電力が復旧すると、唐沢優子と名乗るS区の飼育員が水槽を押してやってきて、昏睡状態に陥り高熱を出している実験体を助けてほしいと懇願してきたのだ。

それはただの実験体ではなかった。医療センターは三日前に、その個体の受け入れを拒否し、同時にその正体を秘匿せよとの命令を受けていた。

まさか、あの物腰柔らかな若い女性が、尻尾を踏まれた...

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