第11章 幻覚

今井優奈は力いっぱい頭を振り、目の前の古川雅哉を見定めようとした。

けれど――。

さっきまで端正だったはずの古川雅哉の顔が、彼女の視界の中でぐにゃりと歪み、無数のゴキブリへと変わっていく。黒々とした脚が、びっしり、うごめく。

昨日、ゴキブリに呑まれたあの恐怖が、記憶の底から津波みたいに押し寄せた。

「ぁあああああああ!!」

悲鳴が、パーティー会場のど真ん中で炸裂した。

演奏していたバイオリニストがびくりと手を跳ね、ギィィッ、と耳を裂くような音割れが走る。ざわめきが一瞬で凍りついた、その次の瞬間――。

優雅に微笑んでいたはずの今井優奈が、突如として狂ったみたいに、手にしていたグラ...

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