監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

鈴木楓花 · 完結 · 450.1k 文字

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紹介

監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」

チャプター 1

今井心晴が誘拐されてから、一年。

ようやく、彼女は今井家の門の前に立っていた。

送り届けたのは、山道の途中で彼女を見つけた地元の農夫だった。土にまみれた古いトラックが、高級住宅街の白い街灯の下に停まる。その場違いな音が、やけに耳についた。

車を降りると、今井家の邸宅は眩しいほど明るかった。庭には客が溢れ、グラスの触れ合う音と、柔らかな音楽が夜気に溶けている。

「お前んち、家族に大事にされてるって言ってなかったか?」

農夫が鼻を鳴らした。

「一年も行方不明だった娘が帰ってくるかもしれねえのに、パーティーかよ」

心晴は答えられなかった。

誘拐される前、彼女は確かに家族に愛されていた。父にも母にも、姉にも。名家の令嬢として何不自由なく育ち、婚約者にも大切にされていた。

だから、帰ればすべて終わると思っていた。

この一年が悪夢だったのだと、誰かが抱きしめて言ってくれると信じていた。

「言っとくが、礼はちゃんともらうぞ。送り届けたら報酬を払うって話だったからな」

農夫の声に、心晴はかすかに頷く。

彼女は一年ものあいだ、誘拐犯に地下室へ閉じ込められていた。逃げ場も光もない場所で、ただ生き延びた。偶然通りかかったこの農夫に見つけられなければ、今ごろまだあの闇の中だっただろう。

助け出された直後、家に電話もした。

だが、掠れきった声を聞いた家族は、彼女を詐欺師だと決めつけた。怒鳴られ、切られた。

仕方ない、と自分に言い聞かせた。声も、姿も、もう昔の心晴ではなかったから。

それでも――家族なら、きっと。

心晴は重い門を押し開けた。

庭にいた客たちの視線が、一斉にこちらへ向く。

その中心に、姉の今井優奈がいた。華やかなドレスをまとい、父と母に寄り添われ、幸福そのものの笑みを浮かべている。

その隣へ、白いスーツの男が歩み寄った。

端正な横顔。昔と変わらない、穏やかな眼差し。

古川俊哉。

心晴の幼なじみであり、婚約者だった男。

俊哉は優奈の前で身をかがめ、彼女の頬にそっと口づけた。

「誕生日おめでとう、優奈」

心晴の息が止まった。

胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。

かつて同じ声で、俊哉は言ったのだ。

――一生、君を守る。

――何があっても、そばにいる。

その優しい目が今、姉だけを見つめていた。

「おーい!」

沈黙を破ったのは、農夫の怒鳴り声だった。

「あんたらんとこの嬢ちゃん、帰ってきたぞ! 迎えにも来ねえのか!」

音楽が止まる。

ざわめきが、波のように広がった。

「……あれ、今井心晴?」

「嘘でしょう。何、あの格好……」

「汚い。臭いもひどいわ」

「一年も監禁されてたんでしょ? 何をされたか分かったものじゃないわね」

刺すような囁きが、容赦なく耳に入ってくる。

心晴は唇を噛み、俯いた。

ぼろぼろの服。泥と垢にまみれた肌。乾いて絡まった髪。洗い流せない腐ったような臭い。

一年前、この庭で誰よりも羨望を集めていた令嬢は、いまや誰も近づきたがらない汚れた女になっていた。

誰も知らない。

彼女が最後まで抵抗したことを。

屈しなかったことを。

金にならないと分かった誘拐犯たちに地下へ放り込まれ、闇と悪臭の中で、ただ死を待つように生かされていたことを。

犯人の妻が哀れんで残飯を運んでくれなければ、とっくに息絶えていたことを。

「……心晴、本当にあなたなの?」

母、今井洋子が口元を押さえた。

その目にあったのは、再会の喜びではなく、隠しきれない動揺と嫌悪だった。

父の今井茂雄も、硬い表情のまま呟く。

「戻ってきたなら……それでいい。ああ、無事なら、それで……」

言葉は優しいはずなのに、声は遠かった。

優奈は一瞬だけ固まり、すぐに涙ぐんだような顔を作った。

「心晴……よかった。本当に、帰ってこられてよかったわ。みんな、ずっと心配していたのよ」

けれど彼女は、心晴に触れようとはしなかった。

一歩も、近づかなかった。

「おい、感動の再会はいいからよ」

農夫が割って入る。

「俺は約束どおり、こいつを家まで連れてきた。礼を払ってもらおうか」

茂雄と洋子の視線が、心晴に向く。

心晴は掠れた声で答えた。

「……この人が助けてくれました。家まで連れてきてくれたら、お礼をすると約束しました」

茂雄は農夫の汚れた服を一瞥し、眉をひそめる。

「いくら欲しい?」

農夫は指を五本立てた。

「一千万だ。一円もまけねえ」

庭の空気が冷えた。

今井家に払えない金額ではない。だが、土臭い男に払うには惜しい――その本音が、父母の顔にありありと浮かんだ。

心晴の胸が、静かに冷えていく。

自分の命は、一千万にも満たないのだろうか。

茂雄はしばらく考え、やがて作り笑いを浮かべた。

「娘を助けてくださったこと、感謝します。長旅でお疲れでしょう。まずはうちで休んでください。お礼の件は、改めて話し合いましょう」

農夫は豪奢な邸宅を見回し、にやりと笑って頷いた。

その瞬間、また客たちの囁きが始まる。

「あの農夫、目つきがいやらしいわね」

「まさか、心晴さん……あの人にも何かされたんじゃない?」

「一年も消えてたのよ。もう、まともな令嬢としては見られないわ」

言葉が、皮膚ではなく魂を削っていく。

心晴は何も言えなかった。

「いつまでそこに立っているの」

洋子が耐えかねたように言った。

「二階へ行って、お風呂に入りなさい。その服も捨てて。……お客様の前に出られる姿ではないわ」

心晴は無表情のまま、メイドに案内されて階段を上がった。

浴室で肌が赤くなるまでこすった。何度も石鹸を泡立て、髪を洗い、爪の間まで洗った。

それでも、地下室の臭いは消えなかった。

まるでこの一年が、毛穴の奥にまで染みついてしまったかのように。

清潔な服に着替え、浴室を出る。

階段の踊り場に差しかかったとき、下から優奈の声が聞こえた。

「俊哉……心晴が帰ってきたなら、私のことはもういらないの?」

泣き声まじりの、か細い声。

続いたのは、俊哉の冷たい返事だった。

「心晴は一年も行方不明だったんだ。何人の男に触られたか分からない。そんな女、俺はもう要らない」

心晴の指が、手すりに食い込む。

そして俊哉は、何の迷いもなく言った。

「今、俺が愛しているのは優奈だ」

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だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。

長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」

彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
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家族が偽りの善人面を振りまく中、彼らの仮面を一枚ずつ剥ぎ取っていく最高のショウタイム。
そんな私を面白がり、盤面をひっくり返す男がいた。冷徹なるF1チャンピオン。彼だけは、私の冷酷な正義を肯定し、その権力で私を囲い込む。
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