第4章

銀座の午後の陽光が、床から天井まである大きな窓から差し込み、高級ブランドの中古品店を金色の光輪で包んでいた。

千鶴は大きな紙袋を抱えて店内へと入る。中には、宗谷がこの五年間で彼女に贈ってくれたプレゼントが詰まっていた。

エルメスのバッグ、シャネルのコート、カルティエのアクセサリー。

「いらっしゃいませ」

店員が職業的な笑みでお辞儀をする。

「お客様、何かお探しで……」

「これを売りたいんです」

千鶴は紙袋をカウンターの上に置き、まるで天気の話でもするかのように平然とした口調で言った。

店員は紙袋を開けると、瞬時に目を輝かせた。

「これらはすべて限定品ですね! それに、こんなに状態が良いなんて……」

彼女は窓の外の街並みに目をやり、これらの品々の背後にある意味を考えないように努めた。

「千鶴?」

聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

千鶴の身体が強張る。

ゆっくりと振り返ると、VIPエリアの入口に宗谷が立っていた。その表情は驚きから慌てふためいたものへと変わっていく。

彼の隣には、星野美波が立っている。その首には、明らかに彼女には手の届かないであろう、精巧なダイヤモンドのネックレスがかけられていた。

「どうしてここに?」

宗谷は早足で近づいてくる。その視線は落ち着きなく揺れていた。

千鶴の視線は、美波の首にかかるネックレスをなぞる。

それで、すべてを察した。

「別に、何をしに来たわけでもないわ」

千鶴は微笑み、まるで世間話でもするかのように軽い口調で言った。

宗谷は明らかに勘違いしている。彼女が買い物をしに来たのだと。

「千鶴、何か欲しいものがあるなら、アシスタントに買わせればいいだろう」

彼は無意識に彼女の手を握ろうとする。

千鶴は一歩下がり、その接触を避けた。

「一日中家にいるのも退屈だから」

彼女の声は依然として穏やかだ。

「それで、あなたたちは? どうしてここに?」

千鶴は顔を向け、美波の瞳をまっすぐに見つめた。

その瞳は今、挑発と得意げな色に満ちている。

宗谷は自ら説明を始めた。

「千鶴、誤解しないでくれ! 大事なクライアントへのビジネスギフトを選んでいたんだ。美波はただ、参考意見を……」

「そう?」

千鶴の視線は美波の首のネックレスに落ちる。

「そのネックレスも、ビジネスギフトなのかしら?」

美波の顔から笑みが凍りついた。

宗谷の額に汗が滲み始める。

「それは……その……」

「宗谷さんが私にくださるって」

美波が突然、自慢げな口調で割り込んできた。

「大きなプロジェクトを成功させたご褒美だって」

千鶴は笑った。

その笑みは、人の心を凍てつかせるほど冷たい。

「なるほど」

彼女は信じなかったわけではない。というより、考えることすら億劫だった。

「それじゃあ、お仕事の邪魔はしないわ。私はもう少し見て回るから」

宗谷は慌てて一緒にいると言ったが、美波が口を挟む。

「社長、クライアントがお待ちですよ。今から奥様とご一緒なさるんですか? あ、いえ、社長と奥様は本当に仲がおよろしいですから、やはり奥様とご一緒するのが一番ですよね」

千鶴は微笑みながら、彼女を抱き寄せようとする宗谷の手を押し返した。

「本当に気にしなくていいから。一人で買い物くらいできるわ。あなたたちは早く仕事に戻って」

宗谷の顔が青ざめる。理由はわからない。

彼は、ふいに恐怖を感じた。

まるで、すべてを失おうとしているかのような恐怖を。


銀座の通りは人々が行き交っている。

千鶴はあてもなく歩きながら、頭の中では先ほどの光景が何度も再生されていた。

彼女はふと足を止める。

目の前には喫茶店があり、透明なガラス窓に彼女の姿が映り込んでいる。

この店には、見覚えがあった。

十三年前、17歳だった彼女と宗谷が初めてデートしたのが、ここだった。

あの頃の宗谷はまだ貧しい学生で、彼女に簡単な約束の指輪を買うため、コンビニで半年間もアルバイトをしていた。

宗谷の手は凍えて真っ赤になっていたが、それでも彼は毎日、授業が終わるとアルバイトに向かった。

「千鶴には、一番良いものがふさわしいんだ」

当時、彼はその簡素な銀の指輪を彼女の指にはめながら、そんなにも真摯な眼差しで言った。

今、その指輪はまだ彼女のアクセサリーケースの中にある。

そして宗谷は、愛人のために気安く高級品を買ってやれる男になった。

千鶴の目元が少し潤む。

宗谷の裏切りに泣いているのではない。かつて心から彼女を愛してくれた、あの少年のことを惜しんでのことだった。

あの少年は、もう死んでしまったのだ。

突然、スマートフォンが震えた。

千鶴がスマートフォンを取り出すと、見知らぬ番号からのメッセージが表示される。

『立花夫人、宗谷さん、あなたがベッドでつまらないって言ってますよ~』

『結婚して五年も経つのに、旦那さんを満足させられないなんて。そりゃ捨てられますよね』

『そんな役立たずなのに、どうしてまだその座にしがみついてるんですか?』

千鶴は街角に立ち、その三通のメッセージを見て、ふっと笑った。

彼女は手慣れた様子でスクリーンショットを保存し、そして返信する。

『お好きにどうぞ』

送信後、その番号をブロックした。

とっくに知っていたこととはいえ、やはり胸が苦しくなる。

宗谷は完璧に装っていた。誰もが彼を、最高の夫、妻を最も愛する夫、最も羨望される夫だと思っていた。

だが結局、それはただの虚像だった。

愛は減り続けるだけで、歳月の中で薄れていく。

彼はもう、この結婚に飽きてしまったのだ。


夕方六時、千鶴は家に帰った。

がらんとしたマンションには彼女一人しかいない。

彼女は今日集めたすべての証拠を整理する——銀行の振込記録、美波からの挑発的なメッセージのスクリーンショット、高級品店での目撃証拠。

一つ一つの資料を丁寧に分類し、クリアファイルに収めていく。

それを終えると、千鶴はノートパソコンを開き、タスクリストにチェックを入れた。

二日目達成項目:

  • ✓ 高級品の売却

  • ✓ さらなる浮気の証拠収集

  • ✓ 美波の挑発行為の確認

  • ✓ 宗谷に事の重大さを認識させる

彼女はそのリストを見て、口元に冷たい笑みを浮かべた。

「あと五日」

スマートフォンが鳴った。

真理からのメッセージだ。

『千鶴、大丈夫? そばにいようか?』

千鶴は少し考えて、返信する。

『大丈夫よ。いつになく、元気だから』

彼女は立ち上がり、床までの窓辺へ歩み寄る。

東京の夜景はきらびやかで、無数の光が闇の中で瞬いていた。

千鶴はふと17歳のあの年、彼女と宗谷がこの街の片隅に立ち、夜空に向かって誓いを立てたことを思い出す。

「一緒に世界中を旅して、あらゆる景色を見よう」

あの時の宗谷は言った。

「私は世界中の地質構造を研究したい」

あの時の彼女は言った。

「なら、俺が一緒にいるよ」

宗谷は彼女の手を強く握った。

今、彼女はついにその夢を叶えに行こうとしている。

ただ、隣にもう彼がいないだけ。

千鶴のスマートフォンが再び震えた。

今度は宗谷からの長文メッセージだった。

『千鶴、今日のことで誤解させてしまったのはわかっている。だが信じてくれ、俺と美波は本当にただの仕事仲間なんだ。あのネックレスも確かにビジネスギフトで、プロジェクトのために……』

千鶴は最後まで読まなかった。

彼女はそのままメッセージを削除した。

嘘を千回繰り返したところで、真実にはならない。

彼女は寝室へと向き直り、荷造りを始めた。

彼女の心は、とうの昔に冷え切っていた。

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