第42章

 伊能黎真は彼女を腕の中へ引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。

「早く休めよ、彼女さん」

 鈴鹿柚葉の耳たぶがかっと熱くなる。そっと抱き返してから、すぐに離れた。

「そっちも! 帰り、気をつけてね」

「帰ったら連絡する」

「うん」

 鈴鹿柚葉はドアを押して車を降りた。夜風が、庭の草木の匂いをまとってふわりと頬を撫でる。

 ふいに、誰かの視線を感じた。

 二階のほうへ目を向ける。

 ……誰もいない。

 鈴鹿柚葉は何事もない顔で視線を引き、別荘へ戻った。

 その頃二階。

 夏川音子はカーテンの陰に立ち、顔色をどす黒く沈めていた。

 伊能黎真が、鈴鹿柚葉を抱きしめていた。

 ...

ログインして続きを読む