第58章

「うん」

 鈴鹿柚葉は断らなかった。昔から馬という生き物が好きだ。

 馬場の柵の内側、青い芝の上では数頭の馬が首を垂れて草を食んでいる。

 柚葉は一目で、いちばん奥にいる一頭の黒馬を見つけた。

 すらりと伸びた体。艶のある黒い鬣。じっと立っているだけで鋳鉄の彫像みたいに見え、隣の馬とは明らかに纏う空気が違う。

「あれが伝説の名馬だよ」

 古池奏多が彼女の視線を追って言った。

「まだ馴れてなくてさ。気性が荒いから、誰にも乗らせてない。先週も無理に跨がったやつがいて、振り落とされて肋骨を二本やった」

 奏多の目が、子どもみたいにきらきらする。

「でも本当に綺麗だろ。わざわざ海外...

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