第2章
金曜の夜、午後七時。B市にある高級マンションの屋上テラス。
私は脚立の上で、明日のパーティーのためにストリングライトを飾り付けていた。会場は、私の完璧主義な基準通りに形作られていく――シャンパンステーション、DJ機材、そして花の装飾も。
三日間。
あの冷血な医者と、丸三日も口をきいていない。
私はわざと音響システムの音量を最大にしてテストし、耳をつんざくようなエレクトロニックミュージックを夜空に響かせた。あの早寝早起きの支配欲の塊みたいなヤツに、これが現実の音だって思い知らせてやる!
スマホがけたたましく震えた。
「陽菜!」母の取り乱した声が電話口から突き刺さる。「今すぐ病院に来て!お父さんが……倒れたの!心臓発作よ!M市総合病院の救急科に運ばれたわ!」
持っていた飾りが手から滑り落ち、地面に叩きつけられた。
ストリングライトが砕け、ガラスの破片がそこら中に飛び散る。
「えっ!?」私は脚立から落ちそうになった。「お母さん、何言ってるの?お父さんが、どうして……」
「わからないの!夕食が終わったばかりで、急に胸が痛いって押さえて、それから倒れて!救急車がもう……ああ、血が、すごく……」
電話が切れた。
私の世界が崩壊した。
嘘、ありえない!お父さんはいつも健康そのものだったのに!先週だって、智也のおじいさんと将棋をしていたじゃない!
私は狂ったように階段を駆け下り、ハイヒールを履き替えることさえせず、病院へと車を飛ばした。
十五分後、私はM市総合病院の救急科のドアを突き破るように飛び込んだ。そこは完全な混沌だった。
監視モニターの甲高い警告音、走り回る看護師たち、怒鳴るように指示を出す医師たち――そのすべてが混ざり合い、パニックの交響曲を奏でていた。待合室の椅子に崩れ落ちた私は、どうしようもなく震え、涙が頬を伝って流れ落ちた。
あんなに弱々しいお父さんを見るのは、生まれて初めてだった。血の気を失った顔は紙みたいに白く、担架の上で、ぴくりとも動かない……
「佐藤さんの娘さんですね?」一人の医師が近づいてきた。「お父様の状態は、緊急の心臓カテーテル検査が必要ですが……」
「そんな専門用語、わからない!」私は取り乱して叫んだ。「教えてください――父は死ぬんですか!?」
「最善は尽くしますが、心筋梗塞では……」
でも、何ですって!?
頭が真っ白になり、医師の言葉が理解不能な雑音として耳をかすめる。心臓発作、心臓カテーテル――そんな冷たい医療用語は、まるで知らない外国語のように聞こえた!
誰に頼ればいいの?私はどうすればいいの?
お母さんはもうパニックだし、お父さんは生死の境をさまよっている。そして私は……私は、まったくの無力だった!ただのイベントコーディネーターでしかない私に、こんな生死に関わる危機を前にして、できることなんて何もなかった!
もしお父さんが死んでしまったら?もう二度と会えなくなってしまったら?
パニックが津波のように押し寄せる。足の力が抜け、周りのすべてがぐるぐると回り始めた……
救急治療室の混乱に溺れかけていたその時、ふと、智也もこの病院で働いていることを思い出した。
「陽菜」
背後から、低い声がした。
振り返ると、白衣を翻しながら智也がこちらへ大股で歩いてくるところだった。いつもは冷たいその顔に、今はひたすらな集中力と緊迫感が浮かんでいる――家で医学雑誌を読んでいる時の、あの無関心な様子とはまるで違う。
「現状は?」智也は落ち着いた、それでいて威厳のある声で、救急医に直接問いかけた。
「ST上昇型心筋梗塞、来院時血圧90/60、心拍不整。ニトログリセリンとアスピリンは投与しましたが……」
「すぐに心カテの準備を」智也はためらうことなく遮った。「中村先生に連絡――最高のインターベンション専門医を呼んでくれ!それから、最高の冠疾患集中治療室を確保しろ!」
「高橋先生、しかしプロトコルでは……」
「責任は俺が取る!」智也は腕をまくった――見慣れたその仕草が、今ばかりはかつてないほどの権威を帯びていた。「佐藤教授は俺の身内だ。決定権は俺にある!」
私は目の前の男を呆然と見つめた。これが本当に、家では三分と目を合わせられない、あの不器用な夫なのだろうか?
今の智也は自信に満ちて指示を出し、口にする医療用語はどれも的確でプロフェッショナル、下す決断は迅速かつ断固としている。すべての医療スタッフが、彼の命令に従って動いていた。
そうか……これが、ここでの彼の権威なのか。
「大丈夫だ」智也は私に向き直り、その目は揺るぎなかった。「俺が保証する」
その言葉は、どんな慰めよりも力強かった。
まもなく、お父さんは手術室へと運ばれていき、私は目の前で重い扉が閉まるのを見つめることしかできなかった。
手術は、過酷な六時間に及んだ。
真夜中の病院の廊下は、非常灯がぼんやりと照らすだけで、時折、看護師の慌ただしい足音が響く。私は硬い待合室の椅子に身を縮めていた。涙はとっくに枯れ果てていた。
服に付いたパーティードレスのスパンコールが、照明の下で場違いにきらきらと輝き、まるで間違って病院に迷い込んでしまったようで、自分がひどく浮いているように感じられた。
なんでよりによって今日なの?どうして私は、智也に冷たく当たっていたんだろう?もしお父さんにもしものことがあったら、私は自分を絶対に許せない……。
「コーヒーでも飲んで」
耳元で、温かい声がした。智也は白衣を脱ぐと、震える私の肩にそっとかけ、隣の椅子に腰を下ろして熱いコーヒーのカップを差し出してくれた。
「あなた……いてくれなくてもいいのに」私はかすれた声で言った。「疲れてるでしょ、明日も手術があるのに……」
「飲んで」彼の口調は優しかったが、断固としていた。「体力を保たないと」
コーヒーは苦いが、温かかった。
私は隣に座る男の顔を盗み見た。智也の目の下には濃い隈ができていて、髪も少し乱れている。それでも背筋はまっすぐに伸びていて、いつでも緊急事態に対応できるように身構えているようだった。
十時間以上も働き続けているのに、こうして私のそばにいてくれるなんて……。
「どうして……」思わず問いかけていた。「どうして、そんなに優しくしてくれるの?私たち、喧嘩したばかりなのに……」
智也は長く黙り込んでいたので、もう答えてはくれないのだと思った。
「大事だからだ」彼はついに、羽のように柔らかな声で言った。「俺にとって」
心臓が肋骨を激しく打ちつけた。
どういう意味?私が、大事?結婚をキャリア戦略としか考えていない男にとって、私がそんなに大切なはずがあるだろうか?
でも、それを問い詰める勇気はなかった。
午前四時。智也は椅子に座ったまま、浅い眠りに落ちていた。私はその疲れ切った横顔を見つめながら、初めて、私と婚姻契約を結んだこの男を、本当の意味で観察していた。
高い鼻筋、固く結ばれた薄い唇、眠っていても眉間にはわずかに皺が寄っている。長く清潔な指先からは、まだ手術用の消毒液の匂いがした。
この手が、父に生きるチャンスを与えてくれたのだ。
その瞬間、私はこの男のことを、今まで何も知らなかったのかもしれないと、ふと思った。
彼の疲れた寝顔を見つめながら、時間だけがゆっくりと過ぎていく。私の心は、ぐちゃぐちゃに絡まっていた。
午前六時。廊下の窓から、朝の最初の光が差し込んできた。
手術室の扉が、ついに開いた。
「手術は成功です」執刀医がマスクを外しながら現れ、疲れているが満足げな笑みを浮かべた。「患者は安定しており、心機能も良好に回復しています。冠疾患集中治療室で四十八時間の経過観察が必要ですが、基本的に危険な状態は脱しました」
「本当に?」私は飛び上がり、再び涙が溢れ出した。「本当ですか?お父さん、本当に大丈夫なんですか?」
「ええ、高橋先生の迅速な初期対応とその後の手配が非常に的確で、手術のための貴重な時間を稼いでくれました」
私は智也の方を振り返った。感謝の気持ちが、津波のように押し寄せてくる。ためらうことなく駆け寄り、彼を抱きしめた。
「ありがとう……」声が震えた。「なんてお礼を言ったらいいか……あなたがいてくれなかったら、あなたがすぐに最高の先生を手配してくれなかったら……私、どうしたらいいか本当にわからなかった……」
智也は私を見下ろし、いつもは冷静なその瞳に、複雑な何かが揺らめいた。
「当然のことをしただけ」彼は静かに言った。「家族だから」
家族。
その二文字が、胸の中で爆発した。
「義父」でもなく、「佐藤教授」でもなく、「家族」。
その瞬間、私ははっきりと理解した――この人は、私のことを本当に家族だと思ってくれていたんだ。それなのに私は、ずっと逃げ出すことばかり考えていた。
帰り道、私は智也の運転する車の助手席に座り、彼の横顔を盗み見ていた。
朝の光が窓から差し込み、前方を真剣に見つめる彼の顔を照らす。ハンドルを握る手は、手術室での彼の手と同じように、安定していて頼もしかった。
『家族だから』
その言葉が、頭の中で何度も響いていた。
三日前、私は彼を冷血で仕事中毒の支配的な男だと決めつけ、離婚をきっぱりと要求した。でも今夜……今夜の私は、まったく違う高橋智也を見てしまった。
プロフェッショナルで、権威があって、頼りになって、そして優しい。
もしかしたら、この契約結婚は、私が思っていたよりも、もっと複雑なものなのかもしれない。
車が赤信号で止まると、智也がこちらを向いた。
「大丈夫か?」
私は頷いた。感情が複雑すぎて、言葉にならなかった。
三日前の夜、リビングルームでのことを思い出す――彼の腕まくりの仕草、不器用な試み、そして困惑した表情……。
この結婚に、もう一度チャンスをあげてみてもいいのかもしれない。
