第29章 何者だ?

阿部奈々は手のひらが火照るように痛んだ。言い返したかった。ぶつかってきたのは、どう考えてもあのデブのほうだ。自分だって被害者なのに。

けれど、高原文也の陰った顔を見た瞬間、喉まで出かかった言葉を無理やり飲み込む。

高原文也は、奈々の掌に浮いた血の筋をじっと見つめ、眉間に深い皺を刻んだ。

余計なことは言わない。くるりと背を向けると、ジムの隅にある救急箱の棚へ歩き、消毒スプレーと包帯を引っ張り出した。

大股で戻ってくると、阿部奈々の前に片膝をつき、乱暴に負傷した手を掴み上げる。

「ひっ――」

奈々が反射的に引っ込めようとすると、

「黙れ。耐えろ」

高原文也は容赦なく消毒液を吹きか...

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