精神病院で怪物マフィアのペットになった私、鎖に繋がれて半径3メートルからの外出禁止なんて聞いてない!

精神病院で怪物マフィアのペットになった私、鎖に繋がれて半径3メートルからの外出禁止なんて聞いてない!

桐島遥希 · 連載中 · 455.5k 文字

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紹介

報酬目当てで引き受けた「孤島の精神病院での監視任務」。
しかし、待っていたのは地獄だった。
全身に返り血を浴びたかのような凶悪なマフィアの跡取り――その「ペット」として生きる三ヶ月の契約。
半径3メートル、鎖の届く範囲が私の世界のすべて。
夜、彼のベッドで丸まり、その腕の中に囲われる時、私は狂いそうなほど心地よい「支配」を感じてしまう。
私を襲った囚人を素手で制圧する彼の狂暴さは、私への独占欲の裏返し。
「お前は俺から逃げられない」
そう囁く彼の唇に支配され、私は今日もまた、この鎖が解けないことを願ってしまう。

チャプター 1

11:55。

壁の掛け時計がカチ、カチ、と秒針を刻む。まるで命を急き立てる太鼓の音みたいに。

「早くしな! 今出さなきゃ間に合わないよ! 締切は0時! グズグズしてたらシステムが申請窓口を閉じる!」

向かいの席にいる図書館司書のミラー夫人が、意地悪な視線で阿部奈々とモニカをえぐるように睨みつけていた。干からびた指はすでに、館内の電源スイッチの上に乗っている。

阿部奈々はモニカの背中の後ろに立ち、手のひらが冷や汗でぐっしょりだった。

阿部奈々は十八歳。高校を卒業したばかり。

鳥ですら止まりたがらないような、この寂れた町じゃ、卒業は失業と同じ意味だ。

モニカは阿部奈々の親友で、いつだってこうだ。度胸があって、無茶が好きで、賭けが好きで、そして必ず奈々を巻き込む。

「モニカ、やめようよ」奈々は声を落とした。喉が震える。

「まともな求人がさ、公共掲示ネットの一番下にある文字化けリンクに隠れてるなんて……」

「黙って、奈々!」モニカは振り返りもしない。

「一生、ジェックのガソリンスタンドでガソリンの臭い嗅いで生きる? 最後はあんたのアル中の親父みたいに、トレーラーパークで腐って終わる?」

ページがようやく、重たい息を吐くみたいに表示された。

画面に躍ったのは、血みたいに赤い文字。

【郊外私立・重度精神病院 短期付き添いプロジェクト】

「三か月! 住み込み! 飯つき! 報酬はまるっと500万!」モニカの声が興奮で甲高くなる。

「この金があれば、市街地でアパート借りて、中古車買って、こんなクソみたいな町から完全に出ていける!」

500万。

この町じゃ、命が二つ買える額だ。

このボロい町は、東の伐採場が二年前に潰れた。残ったのはハイウェイ沿いの傾きかけたモーテルと、安いジャンクフードを売るコンビニ、時給が泣けるほど低いファストフード店くらい。

大学に行けなかった若者は、粗悪なビールで街角に座り続けるか、レジの裏で青春を擦り潰す。

奈々もモニカも、家は裕福じゃない。

奈々は雨漏りするトレーラーの集まったキャンプで暮らし、毎月の家賃に追われている。

モニカも似たようなものだ。家には酒に溺れる義父がいる。

ここを出ること。それが二人の執念だった。

でも――精神病院。

「忘れたの?」奈々は耐えきれず言った。

「町の人たち、あそこをなんて言ってる? ブラックパインズの一番奥に建ってて、配送トラックだって近寄りたがらないって……」

「先月、コンビニで働いてた大男のトムが警備員になったけど、二週間もしないで辞めた。こないだ道で見たら、痩せこけて、目がうつろで、言葉もまともに――」

「トムは元からビビりでしょ」

モニカは鼻で笑った。

「狂った患者に脅されて、漏らしただけじゃない?」

そう言いながら、モニカはキーボードを叩き始める。奈々の個人情報を入力していった。

「奈々、いい? 高給には高リスク。世界はそう回ってんの」

「隔離された環境で住み込み、長期の守秘義務契約、ハイリスク患者の対応――地元の連中が尻込みする分、あたしたちのチャンスってわけ!」

「見てよ、今のあたしたち。救済会のお下がり着て、ポケットの小銭足してもハンバーガーひとつ買えない」

「ここに残ったら、生活に少しずつ殺される。腐るくらいなら、賭けろ!」

奈々は喉の奥が詰まったように息ができなかった。

モニカが正しいのは分かっている。貧乏の恐怖は、曖昧な怪談よりよほど息を止める。

「ほら、写真!」

モニカは迷わせない。奈々を引っ張り、蜘蛛の巣みたいに画面が割れた古いスマホを取り出して、インカメラを起動した。

「え、これで証明写真?」奈々は目を丸くする。

「図書室のポンコツパジャマ、カメラついてないの。いいから笑って!」

カシャ。

フラッシュが弾け、青白くこわばった二人の顔を照らした。

モニカは即座に写真を転送し、乱暴にトリミングして、申請システムの添付に放り込む。

時刻は11:58。

ミラー夫人が椅子から立ち上がり、こちらへ歩いてくる。

「あと二分だよ、娘たち」

画面には最終段階――数十ページに及ぶ免責事項と守秘義務契約。

ぎっしり詰まった黒い文字の中に、奈々は幾つかの言葉を拾ってしまった。

「不慮の事故」「精神崩壊」「追訴権の放棄」「生涯沈黙」。

「待って、モニカ。これ、変だよ。ちゃんと読まないと――」

心臓が暴れた。恐怖で、奈々は本体の電源ボタンに手を伸ばしかける。

雇用契約じゃない。まるで、命の誓約書だ。

「時間ない!」

モニカが奈々の手を叩き落とし、スクロールバーを一気に最下段へ。

条項を一文字も見ず、「私はすべての守秘契約および免責事項を読み、同意します」のチェックボックスをクリックし、エンターキーを強く叩いた。

画面中央に緑の丸が現れ、ゆっくり回転する。

11:59。

ミラー夫人が背後まで来て、手を伸ばし、LANケーブルを抜こうとした。

「チン――」

ページが切り替わり、中央に赤い文字。

【申請資料は正常に送信されました。連絡を保持し、採用通知をお待ちください。】

「よっしゃ!」

モニカが椅子から跳ね上がり、拳を振った。

0時の鐘が鳴る。

二人は机の上のバッグを掴み、怯えた野良猫みたいに頭を下げて図書室を飛び出した。

背後でガラス扉が乱暴に施錠され、「カチャ」という鈍い音がした。

真夜中のハイウェイは、街灯の半分が壊れている。残った灯りもチカチカと不安定に明滅していた。

「やったね、奈々!」モニカは足取りが軽い。背中まで昂ぶりが滲む。

振り返って後ろ歩きになり、両手で空中に夢を描く。

「通知さえ来たら終わり! ここから出られる! 500万! もう車の色まで決めてるんだから!」

奈々は必死に口角を上げたが、笑えなかった。

高給には高リスク。

街灯の下で、モニカは大きすぎる古着のジャケットをきつく締め、電話のジェスチャーをしてみせる。

「いい? 着信音最大。五分おきにメール確認。来てるか見て」

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