第30章 私物

阿部奈々は顔を上げ、何列も並ぶ濃い色の金属器具の向こう――有酸素トレーニングエリアへ視線を飛ばした。

高原文也が、トレッドミルで軽く走っている。

黒い上着は脱いで、身体に張りつく黒のタンクトップ一枚。汗が、締まった筋肉の輪郭をなぞるように流れ落ちていた。

けれど阿部奈々が息を呑んだのは、それじゃない。

高原の隣のトレッドミルで走っている人間――そこにいたのは、

下山凛。

会議室で、あの醜い傷の顔のまま冷酷にルールを告げた、下山凛だ。

今の下山凛は、あの重装備の制服ではなく、ただの灰色のTシャツ姿。二人は肩を並べて走り、ピッチまで不気味なほど揃っている。

そして、もっと信じがた...

ログインして続きを読む