第42章 最も値打ちのないもの

彼はそれ以上、手を進めなかった。代わりに背を向け、ベッドに投げてあった黒い上着をひょいと掴むと、そのまま阿部奈々の頭の上へ放った。布が落ちて、彼女の身体ごと覆い隠す。

「着ろ」

冷えた声でそれだけ言い捨て、彼は大股でドアへ向かった。

ドアの向こうから、下山凛の声がする。

「500号。制御室が昨日の防犯カメラを照合するって。お前、同行な」

高原文也は苛立たしげに舌打ちし、振り返って阿部奈々に警告するような視線を投げた。それからドアを開け、下山凛について出ていく。

扉が閉まり、すぐに外から施錠される。

鈍い金属音が、胸の奥まで沈んだ。

阿部奈々は上着の下から這い出た。涙が、止まら...

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