第44章 吸い込む

阿部奈々はその場に釘づけになった。高原文也の黒く沈んだ瞳を見返したまま、頭の中だけが忙しなく回転する。

――もし、あいつが警棒を突きつけられる側だったら?

阿部奈々は心の中で思わず悪態をついた。

あんた、片手で200ポンドの大男を白目むかせるマフィアでしょ。

人を喰うこの精神病院で、命知らずのイカれた連中でもない限り、誰がそんなもんをあんたに向けるっていうの。

それに、仮に銃口を向けられたって、こんな怪物に、あたしみたいな弱い女の護衛なんて必要なわけがない。

相手の頭をねじ切ってボールみたいに蹴らないだけマシ、くらいだ。

自分は500万のために、毎日びくびくしながら生きている。...

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