第57章 狂犬

高原文也の視線が、彼女の蒼白な顔と丸まった肩をなぞった。顎がぎゅっと固い。

「飯だ」

そう言い捨てて廊下へ向かう。

「待たせるな」

阿部奈々は一瞬、呆けた。張り詰めっぱなしだった神経が、ようやくほどける。

――追い出されなかった。

彼女は慌てて日記帳を掴み、後を追った。

廊下は静まり返っている。二歩遅れてついていくと、空腹で胃がきりきり痛んだ。

腹が減ってどうしようもない。食えるなら、もう何だっていい。

食堂は、怒鳴り声と金属音が吹き荒れていた。トレーがぶつかるガチャン、ガチャンという音に、灰色の服の男たちの罵声が絡む。

高原文也が扉をくぐった瞬間、ざわめきが不気味なくら...

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