第58章 マッチ棒のように

阿部奈々は、目と鼻の先にある彼の顔を見つめた。

「約束は、まだ生きてる」

迷いなく、阿部奈々はうなずく。

いまの彼女は空腹で頭がくらくらしていて、議論なんてする気力は欠片もなかった。

500万さえ手に入るなら。

この人喰いの狂人病棟で、彼が彼女を守ってくれるなら。

どんな約束だって、まだ生きている。

高原文也は一秒だけ阿部奈々を見つめ、手を離して半歩だけ下がった。

「飯だ」

阿部奈々は震える手で、焼き肉とマッシュポテトを皿いっぱいに盛った。

二人は食堂のいちばん奥、空いているテーブルに腰を下ろす。

その途中、灰色の服を着た男たちは次々と道を開け、視線すらまともに向けてこ...

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