第59章 お姫様扱い

阿部奈々は、目と鼻の先にある彼の顔を見つめた。廊下の薄暗い照明が、高く通った鼻梁に影を落とす。

「……いい」

迷いなく、阿部奈々はうなずいた。

分かっている。この人喰いの狂人病棟で、彼女は最下層の貧乏人だ。欲しいのは500万。命を売って取りに来ただけ。

誇りだの、意地だの、言っていい立場じゃない。

この変態と殺しが日常の場所で、彼が自分を庇い、金を受け取る日まで生かしてくれるなら――彼女は彼のものになる。

高原文也が一秒、じっと彼女を見た。

口の端が、ほんのわずかに歪む。笑ったのかどうかも分からないほど小さな動き。彼はそれ以上何も言わず、踵を返して歩き出した。

二人が病室へ戻...

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