第10章

絵里視点

葡萄谷の葡萄園は、沈みゆく夕陽の黄金色の光に照らされて、まるでおとぎ話の一場面のようだった。小道には真紅の薔薇の花びらが敷き詰められ、穏やかな風に蝋燭の炎が揺れている。その光景すべてが、息をのむほどロマンチックだった。

私は車椅子に座り、直樹が愛情を込めて準備してくれたすべてを眺めていたが、心臓は万力で締め付けられるように痛み、幸福と悲しみが胸の奥で渦巻いていた。

「絵里」完璧に仕立てられたスーツを着た直樹が、ベルベットの小箱を手に近づいてきた。「ここは僕たちが初めてデートした場所だ。そして、僕たちの人生の始まりを見届けてほしいんだ」

『違う。高鳴る心臓は、期待からじゃ...

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