第5章

翌朝早く、私はまだ昨夜の出来事に心を揺さぶられていた。去り際の和也さんの傷ついた表情が何度も頭の中で再生され、一睡もできなかった。

庭で花に水をやりながら気を紛らわせようとしたが、じょうろを持つ手は微かに震え、不吉な予感が拭えない。母様は、今朝早くに用事があると、普段の母様には珍しく慌ただしい様子で出かけていった。その足音が、まだ耳に残っている。

それから三十分も経たないうちに、和也が庭に現れた。ひどい顔をしていた。その瞳には、昨夜の痛みがまだ色濃く残っている。

「絵里、話がある」

声はかすれていた。

「話すことなんてありません」

私は彼から視線を逸らし、花の手入れを続...

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