第5章
夜は更け、月光がカーテンの隙間から私たちの寝室へと差し込んでいた。
正典は深い眠りについている。その顔に浮かぶ愁いは、夢の中ですら消えることはないようだった。
私は横向きになり、彼の横顔を見つめる。かつて精悍だったその輪郭は、今や疲労と歳月に侵され、若い頃の溌剌とした気力は失われていた。
「美子……」
心臓が、どくんと跳ね上がった。正典が夢の中で口にしたのは、私の名前ではなかった。
「美子……すまない……」
今の私の心境は、まさにそんな言葉が相応しかった。唇を固く噛み締め、涙が零れ落ちるのを必死に堪える。
その名前が彼の口から零れ落ちた瞬間、私たちに残されていた最後...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
縮小
拡大
