結婚7年目、私から離婚を切り出した

結婚7年目、私から離婚を切り出した

渡り雨 · 完結 · 10.7k 文字

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紹介

夫の同僚が、私たちの結婚指輪をフリマアプリに格安で出品した。

私はその指輪を買い戻し、そして、彼に離婚を切り出した。

「指輪をなくしただけじゃないか」と、夫は理解できない様子だ。

私は静かに告げる。

「私も、ただ離婚したくなっただけ」

「それだけか?」

私は頷く。

「ええ、それだけよ」

チャプター 1

「離婚しましょう」

その言葉が自分の口から出た時、私自身、少し驚いていた。

声はとても穏やかで、十三年の恋愛と六年の結婚生活に終止符を打つ重大な宣言とは思えなかった。

中村正典が顔を上げ、ノートパソコンの画面から視線を外し、眉をひそめる。

かつて私をときめかせたその瞳には、今や苛立ちの色しか浮かんでいなかった。

「またか? 真那、今日は本当に疲れてるんだ。いい加減にしてくれないか。あのクライアントがどうしても羽田空港まで送ってほしいって言ったからだ。もう説明しただろ」

私は首を横に振り、鞄から一枚の書類を取り出して、コーヒーテーブルの上に置き、彼の方へ押しやった。

昨日プリントアウトした離婚協議書だ。財産分与の案が詳しく記載されている。

「昨日のことじゃないわ。協議書はもう用意してある。財産分与は簡単よ——郊外の小さなマンションと車はあなたに。私はこの都内のマンションだけでいい」

正典は書類を手に取り、素早く条項に目を通す。彼の表情は軽蔑から驚愕へと変わり、最後には私が読み解けない複雑な感情で固まった。

「本気か? 本当に離婚する気なのか?」

「明日の午後、調停手続きを始めましょう」

自分の声が、まるで明日の天気予報でも話しているかのように、異常なほど冷静に聞こえた。

正典は長い間沈黙していたが、最後にはただ短く「わかった」とだけ言い、協議書を持って和室へ入っていった。

私たちは別々の部屋で寝た。

これが初めてではない。でも、今回は違った。

これまでは、彼が残業で帰りが遅く、私を起こさないようにするためだったり、喧嘩の後の冷戦だったり。

でも今夜は、間近に迫った永遠の別れのための準備だった。

翌朝目覚めると、寝室には私一人しかいなかった。正典はもう会社の朝会に出かけていて、さよならの一言もなかった。

おそらく彼にとって、これは数えきれないほどの普通の仕事の一日が始まるに過ぎないのだろう。

私は簡単にお味噌汁とご飯を一杯だけ用意した。

もう以前のように心を込めてお弁当を作ったり、忙しい仕事の日に彼の胃潰瘍が再発しないかと心配したりすることもない。本当に、気が楽だ。

いつだったか、彼の胃に優しい食事を準備するのに一時間もかけて、会社でも健康的なものが食べられるようにと気を配っていたものだ。

午前中、区立病院へ父を見舞いに行った。

父は脳卒中で倒れてからもう二年、寝たきりだ。話すことも、動くこともできない。でも、意識はまだあるかもしれないと医者は言っていた。

「おはよう、お父さん」

返事がないとわかっていても、私は優しく声をかけた。

ベッドの傍らに座り、父がかつてどれほど私と正典の交際に反対していたかを思い出す。

父の目には、平凡な家柄の正典は娘にふさわしくないと映っていた。

あの頃、十八歳の正典はうちの玄関に立ち、父に脅されても一歩も引かず、結婚資金を貯めてから私を娶ると約束した。

でも今、あの頑固で、私を深く愛してくれた男の子はどこへ行ってしまったのだろう。

私は林檎を剥き始めた。刃が皮を削る音が、静かな病室にことさら鮮明に響く。

「お父さん、私、今日の午後、家庭裁判所に行くの」

私は昏睡状態の父に語りかけた。

「正典と離婚するわ」

もし父の意識がはっきりしていたら、きっと反対しただろう。

父の考えでは、結婚は一生のこと。どんなことがあっても添い遂げるべきなのだ。

でも、父にはわからないだろう。会社の駐車場で、正典が田中静香と親密に話し込んでいるのを見た時のことを。彼の手が彼女の肩に置かれ、二人の距離が同僚とは思えないほど近かった時、私の心の中の最後の希望も砕け散ったのだ。

問い詰める勇気はなかった。また「クライアントの接待だ」という言い訳でごまかされるのが怖かったから。

終わりのない冷戦も、私を見る彼の沈黙した首振りも、そして諦めたような嘲笑も。いつも私から謝って関係を修復しようとするのも、もう嫌だった。

そんなのは、疲れすぎる。

もう、そんな思いはしたくない。

携帯が震えた。正典からのメッセージだった。

「会議終わった。本当に離婚調停に行くのか?」

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