第11章

階段の吹き抜けから出た瞬間、私の頬にひんやりとした感触が伝わった。

手を伸ばして触れてみると、いつの間にか自分が涙を流していることに気がついた。

不思議な感覚だった。嬉し泣きでありながら、まるで災厄を乗り越えた後のような恍惚感もある。

悲しくて泣いているわけではないと、確信していた。むしろ、ようやく運命の枷から逃れられる可能性が見えたからだ。

和泉陸との対話を終え、重荷を下ろしたような解放感に、私はほとんど窒息しそうだった。

廊下の角を曲がると、山田優介が壁に寄りかかって私を待っているのが見えた。オーダーメイドの濃紺のスーツに身を包み、所在なさげに後頭部を軽く壁に打ち付...

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