第4章

山口若菜という名前が、私を呪いのように苛んでいた。

あの途切れた電話が、彼女が母を傷つけた最初ではなかった。

この蝶型クリップを握りしめると、記憶は二〇一二年の二月、若菜が初めて家のドアの前に現れたあの日の午後に引き戻される。

当時の私には、『身代わり』という言葉も、『初恋』という言葉も、そして人生に現れてはすべてを破壊していく女がいることなど、知る由もなかった。

暖かく、陽の光が満ちた午後だった。私は裏庭で、一つ一つが完璧に並ぶように注意しながら、慎重に積み木を重ねていた。五歳の私には、本当の家庭が積み木の塔よりずっと脆いものだなんて、想像もつかなかった。

玄関のチャイムが鳴った。

玄関のドアの前には、鮮やかな赤いコートを着た女の人が立っていた。波打つような髪に真珠のイヤリング。まるで映画から出てきた人のようだった。その微笑みさえ完璧で、赤い唇は薔薇のように鮮やかだった。

父がドアを開け、そして凍りついた。

「直人」蜂蜜のように甘い声だった。「離婚、成立したの」

まるで天気の話でもするように、彼女はこともなげにそう言った。だが、空気の中の何かが変わった。嵐の前の静けさのように。

父は眉をひそめたが、ドアを閉めようとはしなかった。ドアノブを握る手に力がこもり、指の関節が白くなるのが見えた。

「若菜……」父の声は掠れていた。「ここで何をしているんだ」

「会いたかった」彼女は手を伸ばし、父の頬に触れた。「私たち、本当は終わってなんかいなかったでしょう?」

母がキッチンから、お皿を手に持って出てきた。

ガチャン――

お皿が手から滑り落ち、粉々に砕け散った。

あんな母の顔は、今まで見たことがなかった。顔からすっと血の気が引いていた。口が何かを言おうと開いたが、言葉は出てこなかった。

「千代さん」若菜は完璧な微笑みを浮かべたまま母の方を向いた。「元気そうね」

母の全身が震えた。エプロンを固く握りしめ、その指の関節が白くなる。冷静さを保とうとしているのがわかったが、声がそれを裏切っていた。「直人さん、この方は……?」

「山口若菜です」女の人は、まるで自分の家であるかのように中に足を踏み入れた。「直人さんの初恋の人。彼の唯一の、本当の恋人」

部屋が息苦しく感じられた。

どういうわけか、若菜は夕食までいることになった。彼女は父の隣に座り、まるでこの家の主であるかのように食事をつついた。

「直人、覚えてる? 昔よく行ったイタリア料理店」若菜は母に聞こえるように大きな声で言った。「あそこのオーナー、私たちのこと、今まで見た中で一番仲良いカップルだって言ってたわよね」

父は答えず、ただ自分の皿を見つめていた。

「まだ私のこと、愛してるんでしょう」若菜はそう言って、父の腕に手を触れた。「千代さんは……ただの身代わり、なんでしょう?」

母が私の椀にご飯を乗せてくれている時だった。その言葉を聞いて、母の手が震え始めた。

私は母を見上げた。母の目は涙でいっぱいだったが、必死に泣くのをこらえていた。少なくとも私の前では、気丈でいたかったのだ。

「もうやめろ」父がようやく口を開いた――だが、その視線は若菜ではなく、母に向けられていた。

母の手が宙で止まった。母の瞳から光が消えていくのを、私は見ていた。

夕食は沈黙のうちに終わった。若菜はついに帰ったが、爪痕は深く残された。

母は私を部屋に運びながら、いつもより強く抱きしめていた。心臓が速く脈打っているのが伝わってくる。母は私の髪を撫でながら囁いた。「映美、何があっても、ママはあなたを愛してるからね」

私を寝かしつけた後、母はリビングへ向かった。私はこっそりドアまで行き、隙間から覗いた。母は父の前に立っていた。その背筋は、庭の小さな木のようにまっすぐに伸びていた。

「直人さん」母の声は普段より甲高く、決意に震えていた。「あなたは私の夫で、映美は私たちの子どもよ! 私を愛していないのかもしれない。でも、家族を捨てるなんてことは許されない!」

母がこんな風に戦うのを見たのは初めてだった。その目は燃えていた――私たちの家庭のために、戦う準備ができていた。

だが、父は冷たく笑っただけだった。

父は引き出しに歩み寄り、一枚の写真を取り出した――白いドレスを着て、太陽のように笑う若い若菜の写真。

「なぜ俺がお前と結婚したと思う?」父の声は氷のようだった。「その目も、笑顔も――お前のすべてが、彼女を思い出させるからだ。その本人が戻ってきた今、お前は自分の立場をわきまえる必要がある」

その言葉は、どんな刃物よりも深く突き刺さった。

母はそこに凍りついたように立ち尽くし、ついに涙が溢れ出した。震える手で写真を受け取り、永遠に続くかのようにそれを見つめた後、くしゃりと握りつぶした――だが、破ることはなかった。

怖かったのかもしれない。あるいは、できなかったのかもしれない。

その夜は果てしなく感じられた。母はバスルームに鍵をかけて閉じこもった。水の流れる音と、くぐもった泣き声が聞こえた。その嗚咽は奇妙な音を立てていた――胸の奥深くから、絶望に満ちた声を必死に絞り出しているようだった。

私は踏み台を引きずってきて、ドアの隙間から中を覗いた。

母は冷たいタイルの床に座り込み、父からの誕生日プレゼントだった青いワンピースを握りしめていた。ドレスは涙でびっしょりと濡れ、青い色は濡れた部分だけほとんど黒に見えた。

母はワンピースの生地に顔を埋め、嗚咽のたびに全身を震わせた。とても小さく、壊れてしまったように見えた。私の知っている強い母ではなかった。

「どうして……」誰に言うでもなく、母は囁いた。「どうして、私が何をしても、決して満たされることがないの……?」

ドアを開けて母を抱きしめたかったけれど、鍵には手が届かなかった。私にできたのは、ドアに体を押しつけて「ママ、大好きだよ」と囁くことだけ。

けれど、母には届かなかった。彼女は自分自身の痛みに囚われていたのだ。

あの夜が、すべてを変えた。若菜はただ私たちの生活に戻ってきただけではない。彼女は、母が抱く最悪の恐怖を連れてきたのだ。本当の自分として愛されたことなど一度もなかったのではないか、という恐怖を。

今ならわかる。一ヶ月後、母が死の淵にいた時、なぜ必死に父へ電話をかけようとしたのか。別れを告げたかったのではない。彼女が知りたかったのは、鈴木直人が一瞬でもいい、山口若菜の影としてではなく、母自身を本当に見てくれていたのか、ということだったのだ。

だが、若菜はそれさえも彼女から奪い去った。

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