第5章

次から次へと思い出が蘇ってくる。

私は蝶型クリップを置き、父の古い本棚へ歩み寄った。一番上の棚に、表紙の色褪せた分厚い料理本があった。それを引き出し、最初のページを開いた。

ページの余白は、母の筆跡で埋め尽くされていた。

「直人さんの大好きな生姜焼き」という文字の横に、小さなニコちゃんマーク。

「肉じゃが――直人さんの好きなやり方で」と、またニコちゃんマーク。

「直人さんが大好きだった野菜の天ぷら」と、さらにひとつ。

どのレシピも、どのメモも、父が何を望んでいるかについて書かれていた。母はまるでノートを取る生徒のように、父のあらゆる表情、何気ない褒め言葉ひとつひとつを書き...

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