第9章

 東野明司が周防家を去ってからというもの、私の周りで彼の名を口にする者はいなくなった。

 再びその消息を耳にしたのは、意外なことに友人を通じてだった。

 食事に誘ってくれた彼女は、とっておきの笑い話でもするかのように切り出したのだ。

「東野明司、つい二、三日前に留置所から出てきたばかりなんですって。彼もあの日村菫って女も、どっちもどっちの性悪ね」

 私はグラスに口をつけ、小首をかしげた。

「へえ?」

「あの日村菫、東野明司が素寒貧で自分の贅沢を賄えないとわかった途端、どうしたと思う? 妊娠六ヶ月だっていうのに、わざと階段から落ちて子供を始末したのよ」

「それで?」

「それでっ...

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